大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)1853号 判決

原告 ユアサ産業株式会社

右代表者代表取締役 栗林英雄

右訴訟代理人弁護士 輿石睦

同 松沢与市

同 寺村温雄

被告 商工組合中央金庫

右代表者理事 佐々木敏

右訴訟代理人弁護士 松尾翼

同 辰野守彦

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金一九六五万五六五七円及びこれに対する昭和六〇年三月八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は、被告の負担とする。

3. 仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.(一) 原告は、木材等の輸入、販売を目的とする会社であり、訴外東京プライウッド株式会社(以下「訴外会社」という。)に木材等を継続的に売り渡していた。

(二) 訴外会社は、合板製造業を営み、昭和五七年六月には千葉県木更津市に工場を移転して操業していたが、昭和五八年八月当時七十数億円の負債を抱え、経営危機の状態に陥っていた。

(三) 被告は、訴外会社の主要取引金融機関(いわゆるメーン・バンク)であり、かつ主要債権者である。

2. 被告は、昭和五八年八月経営危機に陥った訴外会社の再建のために関係各方面と折衝し、その結果、同月三一日被告を中心として、被告と被告以外の訴外会社の主要な債権者七社(原告、三菱商事株式会社、野崎産業株式会社、王子木材株式会社、天龍木材株式会社、株式会社野田修護商店、乾卯薬品工業株式会社、以下「関係七社」という。)との間で、訴外会社の事業を継続しながら再建をはかるために大要左記のとおりの合意をし、覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。

(一)  関係七社は、昭和五八年八月三一日現在の手形債権を棚上にし、他方訴外会社からの買掛債務については約定どおり支払う。

(二)  関係七社及び被告は、同年一〇月末日までに再建計画を策定する。

(三)  被告は、再建計画策定までの期間中に訴外会社が必要とする事業資金を融資する。

(四)  再建計画樹立後の事業継続に当っては、被告は、財務管理の適正を期するため必要な人材を派遣する。

3. 訴外会社の再建にあたっては、関係七社が原材料等を継続して供給することが不可欠であったところ、訴外会社自体は多額の負債を抱えて代金支払能力がないことから、右支払が確実になされることを担保するために、本件覚書により被告が原材料等買入れの決済資金を訴外会社に融資することを確約したもので、関係七社が債権を棚上げし、原材料等を供給して訴外会社の再建に協力することに対し、被告が訴外会社への融資という形をとって右代金の支払を保証したものであって、被告の右融資義務は実質的には関係七社に対するものである。

4. 昭和五八年一二月から昭和五九年一月にかけて、被告及び関係七社間において新たに協定を結んで再建委員会を発足させたが、元被告の深川支店長の長谷川清(以下「長谷川」という。)が右委員長になり、また被告の職員の岩佐毅(以下「岩佐」という。)が訴外会社の常務取締役に就任して、被告は訴外会社の経営に参与し、同人らの指示の下に訴外会社のすべての事業方針が決定されることとなったが、訴外会社の経営内容は従前と変りなく、関係七社への代金決済につき被告の融資が不可欠であった。このような状況下にあって、被告は、そのころ関係七社に対し、原材料等の代金の決済につき従前どおり訴外会社に融資することを確約した。

5. 被告の右融資義務については、被告において訴外会社の再建の見通しがたたなくなるなどの合理的理由があれば、融資を打ち切ることも是認されるが、そのような場合、被告の協力要請に応じて原材料を供給してきた関係七社に不測の損害を与えないように事前に融資打切を通告する義務があり、被告は、昭和五八年一二月二七日に結んだ協定においてこのことを関係七社と合意した。

6. 原告は、昭和五九年七月二七日訴外会社の注文に応じて原木(メランテイ、カポール、クルイン、以下「本件原木」という。)の供給を承諾し、これについては長谷川、岩佐も了解して、原告・訴外会社間に本件原木の売買契約が結ばれ、原告が同年八月一日マレーシア連邦サラワク州から本件原木を輸入して、同年九月七日右原木を積載したノヴァ号が千葉県木更津港に入港したところ、訴外会社は、同月一七日被告からの原木代金決済資金の融資が打ち切られたことにより本件原木の引取を拒否する旨の通知をなし、その後も右引取を拒絶したが、原告は、右融資打切について事前に被告から何ら通告を受けていなかった。

7. 原告は、訴外会社の本件原木引取拒絶のため、やむを得ずこれを他に転売せざるを得なくなり、市況の低下、買主側の買いたたき等の理由により、次のとおりの損害を被った。

(一)  訴外会社との約定価格と販売価格との差額 一八一七万〇七一九円(算定方法は別紙損害額の算定表記載のとおり。)

(二)  諸掛(保管料) 一八三万六七二八円

メランテイ 昭和五九年九月一六日から同年一一月三〇日まで 一三三万一五三八円

カポール、クルイン 同年九月三〇日から同年一一月三〇日まで 五〇万五一九〇円

よって、原告は、被告に対し、債務不履行による損害賠償として、損害賠償金の内一九六五万五六五七円(損害(一)の内金一八一六万九五六二円、同(二)の内金一四八万六〇九五円)及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和六〇年三月八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因第一項の(一)のうち、原告が木材等の輸入、販売を目的とする会社であることは認め、その余の事実は知らない。同項の(二)、(三)の事実は認める。

2. 同第二項の事実は認める。

3. 同第三項の事実は否認し、その主張は争う。

4. 同第四項のうち、被告及び関係七社間において協定を結んで委員会を発足させたこと、長谷川が委員長となり、岩佐が訴外会社の常務取締役に就任したことは認めるが、その余の事実は否認する。

5. 同第五項の事実は否認する。

6. 同第六項のうち、訴外会社がノヴァ号積載の原木を引き取らなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

7. 同第七項の事実は否認する。

三、被告の主張

1.(一) 訴外会社は、昭和五八年七月末ころ、翌月末期日の手形決済が困難な資金状況に陥ったので、被告は、同年八月主要債権者と対応策を協議し、その結果、訴外会社の経営を引き受ける会社を探し、それまでの間暫時債権者が協力して、当面訴外会社の倒産を回避することにした。そこで、関係七社は、同年一〇月末まで訴外会社の手形の決済を猶予し、被告は、この間の訴外会社の事業に必要な当座の資金の融資を継続するという形で協力することで合意し、本件覚書を締結した。

(二) その後同年一〇月末になっても訴外会社の経営を引き受ける会社がみつからず、訴外会社が自主再建する方向で協議がなされ、同月訴外会社から各債権者に経営計画案が提出されて、債権者会議で議論され、また、同月末に棚上げされている関係七社の手形債権についての返済計画案も提示され、各債権者がこれを検討していた。さらに、同年一二月二七日主要債権者により委員会が設置され、委員会において、訴外会社の今後の事業遂行や返済計画に基づく返済等の管理、監督をすることになり、訴外会社は主要債権者の管理、監督により自主再建することになった。そこで、関係七社は、右返済計画案をたたき台にして、各債権者ごとに訴外会社との間で割賦弁済の準消費貸借契約公正証書を作成し、返済計画に関する合意が成立したのである。

(三) 以上により、本件覚書は、あくまでも経営危機に陥った訴外会社に関し、被告と関係七社との間で当面の対応を取り決めたものであって、原告主張の融資義務が被告にあるとしても、それは訴外会社に対するものであって、訴外会社が一定期間営業を継続する上で必要な合理的な額を融資するというものであり、訴外会社の個別取引から生ずる代金債務を保証するものではなく、被告は、本件覚書に基づき原告に対し何ら債務を負担するものではない。

また、原告主張の融資義務が原告に対する債務としてあるとしても、あくまでも関係七社が手形決済を猶予した昭和五八年一〇月末までの期間に留るものであり、そうでないとしても、同年一二月二七日に委員会が設置されて、訴外会社が主要債権者の管理下で自主更生するという形で方向が決まり、各債権者が返済計画を承認し再建計画が策定されたのであって、本件覚書に基づく関係七社の手形債権の棚上げも終了したのであるから、これ以降は被告に融資義務はない。

2. 昭和五九年七月ころ訴外会社において原木の買受については原木会議で決定されていたところ、訴外会社では原木会議は同月末まで実施していたが、その時点での原木会議に提出された訴外会社の資料では、ノヴァ号積載の木材については数量、積地、価格、船名等確定しておらず、単なる購入品の候補として掲示されているにすぎないところ、これと同序列の商品は結局購入されたものが皆無であって、その後原木会議も実施されていない。したがって、原告と訴外会社との間でノヴァ号積載の本件原木の売買契約は成立していない。

四、被告の主張に対する原告の反論

本件覚書に基づく再建計画は、訴外会社の財務内容と工場の生産状況等について調査し、その計画に基づいて再建見通しの判断をした上で被告及び関係七社が策定するとされていたもので、訴外会社の資金、生産、販売計画等を含んだ、いわば会社更生手続における更生計画にも匹敵する、訴外会社再建のために必要な根本的な施策が予定されていたのであり、被告の主張する棚上げ債権についての返済計画案のみがこれに該当するものではない。したがって、被告主張の経営計画や返済計画、これに基づく公正証書、委員会を組織するための協定書等が作成され、各債権者の承認を得たとしても、これらは再建計画に該当するものではなく、原告と訴外会社との間の本件取引までの間に再建計画は策定されていないのであるから、依然被告の融資義務は存続していた。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因第一項のうち、(一)のうちの、原告が訴外会社に木材等を継続的に売り渡していたことは証人武林邦光の証言及び弁論の全趣旨により認められ、同項のその余の事実は当事者間に争いがない。

二、請求原因第二項の事実は当事者間に争いがない。

三、そこで、本件覚書に基づく被告の原告に対する債務の存在(請求原因第三ないし第五項)について判断するに、右争いがない事実と、〈証拠〉によると、以下の事実が認められ、証人国吉宏、同阪田昇、同武林邦光の証言中右認定に反する部分は採用し難い。

1. 合板・製材品の製造加工・販売業を営む訴外会社は、昭和五八年八月当時千葉県からの借入金三二億円をはじめ七十数億円の負債を抱え、資金繰りがひっ迫して、倒産寸前の経営危機の状態に陥っていた。しかして、訴外会社は、国の中小企業高度化助成を受けて前年の昭和五七年六月千葉県木更津市の木材工業団地に工場を移転して操業していたことから、国や中小企業事業団、千葉県等から強い支援要請があり、このため、訴外会社の主要取引金融機関(いわゆるメーン・バンク)である被告は、訴外会社の事業を継続させて再建する方向で主要な債権者らと折衝し、また、原告らに、訴外会社の経営に関与して生産管理の指導をすることを要請し、さらに、訴外会社の経営を引き受ける会社を探したが、早急にこれが決まらなかった。そこで被告は、訴外会社の主要債権者である関係七社と対応策を協議した結果、同年八月三一日訴外会社の再建支援に関し関係七社と大要左記内容の合意をし、本件覚書を取り交わした。

(一)  関係七社は、昭和五八年八月三一日現在の訴外会社に対して有する原木等の代金の手形債権を同年一〇月末日まで棚上げし、一方訴外会社に対する合板代金の買掛債務を通常の取引約定どおり訴外会社に支払う。

(二)  関係七社及び被告は、可及的速やかに訴外会社の財務内容と工場の生産状況等について調査を実施し、その結果に基づいて再建見通しの判断を行い、昭和五八年一〇月末日までに訴外会社の再建計画を策定する。

(三)  右棚上げされた関係七社の手形債権及び利息の支払方法については、右再建計画の中に明示する。

(四)  再建計画策定までの期間中に訴外会社が必要とする事業資金については被告が融資に応じる。

(五)  再建計画樹立後の事業継続に当って、工場の生産、管理、生産技術等については債権者団が指名したものが助言、指導を行うものとし、被告は、財務管理の適正を期するために必要な人材を派遣するものとする。

2. 被告は、その後も訴外会社の経営を引き受ける会社を探したが、みつからず、関係七社は、被告の要請により、本件覚書に基づく手形債権の棚上げ期間を昭和五八年一一月末日まで、同年一二月末日までと二回延期して、訴外会社の手形の決済を猶予していた。そして、被告は、同年九月原告に対し、訴外会社木更津工場における生産状況等を調査して再建見通し、再建計画策定に助言、指導してもらいたい旨依頼し、原告は、これを受けて右調査を実施し、昭和五八年一〇月に開かれた訴外会社の債権者会議に調査結果を報告した。また、訴外会社は、昭和五九年度の経営計画案を作成して、右債権者会議に提示したが、棚上げしている手形債権についての具体的な返済計画がなかったため、関係七社からこれに関し異議が出された。そこで、訴外会社は、同月末までに、関係七社の手形債権については昭和五九年から昭和六二年までの四回の年賦払、被告の債権については昭和六一年から昭和六九年までの九回の年賦払等を内容とする返済計画を作成し、これに資金計画、利益計画も含めて「再建計画案」と題する書面を作成して関係七社に交付したところ、各社はこれを検討して、同年一二月六日に開かれた訴外会社の債権者会議において、関係七社の間で右返済計画が合意され、さらに、棚上げしている手形債権を保全するために、同年一二月から昭和五九年一月にかけて、訴外会社と関係七社との間で、右手形債権を目的とした右返済計画に基づく準消費貸借契約公正証書がそれぞれ作成された。

3. ところで、結局訴外会社の経営を引き受けるような会社は現れず、訴外会社は債権者らの協力を得て自主再建するしかなくなったが、債権者会議などの機会に原告らから債権者による委員会を設置する話題が出、被告が昭和五八年一二月に開かれた債権者会議において関係七社に右委員会設置を提案し、議論された結果、同月二七日関係七社及び被告との間で、債権者としての立場にたって訴外会社の再建をはかるため、右八社による委員会を発足させることが合意され、左記内容の協定(以下「本件協定」という。)が結ばれた。

(一)  委員会は右八社をもって構成するものとし、訴外会社の再建のために、訴外会社が立案する事業計画等の円滑な遂行を期するため、訴外会社に対し助言を行うものとする。

(二)  委員会は、委員長一名、副委員長三名を債権額の順位に応じて選出するものとし、委員長は、緊急事項については副委員長にはかるものとする。

(三)  関係七社は、棚上げ中の手形債権につき引き続き昭和五九年一一月末日まで棚上げする。

同期日以後の償還方法については、別途債務者をして策定せしめる再建計画の中に明示する。

そして、債権額に応じて、被告が委員長に、三菱商事株式会社、原告、乾卯薬品工業株式会社が副委員長にそれぞれ選出された。しかし、委員会はその後数回開催されただけで、関係七社及び被告並びに訴外会社の間で、右委員会の外に訴外会社の再建に向けての会議が開かれたことや、別途再建計画を策定するようなことはなかった。

4. 一方、昭和五八年一〇月被告深川支店に配属されて訴外会社の案件処理に携わっていた岩佐が昭和五九年一月訴外会社の常務取締役に就任して、以後訴外会社の経理関係を担当し、また、元被告深川支店長であった長谷川が訴外会社の顧問に就任して、以後訴外会社の営業関係を担当し、訴外会社の経営について指導、監理し、被告は、その後も訴外会社に融資を続けていたが、訴外会社の売掛金を回収して被告の融資金に対する返済に当てていた。

5. しかして、昭和五八年から昭和五九年にかけて木材合板業界は極めて不況であって、その後も訴外会社の経営は思わしくなく、被告の訴外会社に対する融資額も累積していった(昭和五九年五月ころには他の金融機関からの借入はすべて決済され、被告からの短期借入が二十数億円に、手形割引等合わせて三十数億円に達していた。)。そして、そのころ訴外会社においては、代表者の国吉宏、原木部長の阪田昇、顧問の長谷川外工場長、担当課長らによる原木会議が一か月に一、二回開かれ、その席で原材料の原木の買付計画が立てられ、これが経理部長を通して岩佐に持ち込まれ、岩佐は、これを受けて被告に買付資金の融資の要請をし、その承諾を得て原木の買受が決定され、代金は現金で決済されていたが、岩佐は、訴外会社の経営が不振なため、同年四月ころ原木につき低級材を使用するよう阪田らに指示していた。しかし、その後も高級材の在庫量が増え、同年七月二五日原木会議としては最後の会議が開かれたが、そのころ岩佐は、国吉や阪田に、指示に反して高級材の在庫量が増えていることを注意し、さらに、同年八月二日国吉に対し、同月四日役員部長会議において、阪田らに対し、右原木会議で八月八日受渡と決まっていた原木までは引き取るが、それ以外については当分原木の仕入れを停止するよう指示し、同月四日から一〇日ころにかけて関係七社等の仕入先に対しその旨連絡された。しかし、同年八月末ころ関係七社のうちの一社の野崎産業株式会社が訴外会社に対する買掛金約二〇〇〇万円の支払を拒否したため、関係七社及び被告らの協力による訴外会社の再建が困難となり、訴外会社は、同年九月二五日千葉地方裁判所木更津支部に更生手続開始の申立をなし、さらに昭和六〇年一月二九日千葉地方裁判所に破産の申立をなし、同月三一日破産決定を受けた。

以上の認定事実によれば、本件覚書は、倒産の危機に直面した訴外会社に関し、メーン・バンクである被告及び主要債権者である関係七社が、関係七社は訴外会社の手形の決済を猶予して買掛代金債務については支払を続け、被告は訴外会社の事業資金の融資を継続するということで、相協力して訴外会社の再建を支援する旨合意して取り交わされたものであって、関係七社の手形債権の棚上げ期間や再建計画の策定期間が昭和五八年一〇月末日までとされ、その再建計画の策定期間中被告が訴外会社の事業資金を融資するとされていたものであって、本件覚書による合意は、訴外会社の倒産を当面回避するための措置としてなされたと認められるのであり、その後被告及び関係七社により、債権者による委員会を発足するに際し本件協定が結ばれ、訴外会社が再建計画を策定するとされたところ、再建計画の中で明示するとされた棚上げ中の手形債権の償還方法について、各債権者と訴外会社の間で準消費貸借公正証書が作成されて確定したのである。そして、関係七社が手形債権を棚上げして手形金の支払を猶予した相手方であり、かつ被告が融資する相手方であるところの訴外会社は本件覚書の当事者になっていないのであり、結局訴外会社の債権者が、債権者の立場から、当面の訴外会社の倒産を回避するための、また、訴外会社の再建に向けての基本的方針や方策について本件覚書により合意したものというべきで、右合意によって直ちに被告が原告ら関係七社に対し何らかの債務を負担するものとは解することはできない。

それ故、本件協定を結んだ際被告が関係七社に対し従前どおり訴外会社に融資することを確約したとしても、これにより直ちに被告が原告ら関係七社に対し債務を負担したとは認め難く、また、本件協定により、被告が訴外会社への融資を打ち切る際その旨を原告ら関係七社に通告する義務があるとは認め難いところである。

四、なお、蛇足ながら原告と訴外会社との間の本件原木の売買について検討するに、訴外会社において、月一、二回開かれる原木会議で原木の買付計画を立て、岩佐を通して被告の資金融資の承認を得て買付を決定していたことは前示のとおりであるが、〈証拠〉によると、昭和五九年七月二五日開催の訴外会社の最後の原木会議において、同年八月八日受渡分までの原木の買付は決っていたが、原告との間の本件原木分も含めてそれ以降の七件分については交渉中で、原木の数量、価格、船名等も正式には確定しておらず買付が決っていなかったこと、訴外会社では岩佐の指示により同年四月から原木として低級材を使用していたが、本件原木は高級材に属することが認められ、証人武林邦光は、同年八月一日訴外会社に配般確認書(甲第一三号証)を送付し、同月一〇日原木部長の阪田の確認を得てこれが返送された旨証言しているが、同月二日及び四日に岩佐から国吉及び阪田らに原木の仕入停止の指示があって、同月四日から一〇日にかけて各仕入先にその旨連絡されたのは前示のとおりであり、これらの事情を勘案すると、本件原木の売買契約が、訴外会社において岩佐又は長谷川の承認を得て正式に結ばれたのか極めて疑問であると言わざるを得ないものである。

いずれにしても、原告の請求は、その余の主張について判断するまでもなく理由がない。

五、よって、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下秀樹)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例